2017年5月23日火曜日

SDAin王滝レースレポート

大会名:SDA in 王滝、王滝クロスマウンテンバイク100km 
大会ウェブサイト:http://www.powersports.co.jp/sda/17_otaki_bike_5/index.htm
開催地:長野県王滝村
開催日時:2017年5月21

結果:DNF

今シーズン前半の要のレースとして捉えていた王滝春の陣。

毎年のこととはいえ、国内最大の長距離MTBレースだけにやはり気合が入る。若手選手の台頭もあり、刺激ある高め合える勝負が最近はできている。昨年の秋の王滝では2位だったので今回は「とにかく勝ちたい」その想いでトレーニングを重ねていた。

先のアメリカ遠征ではフィットネスのキレの良さも感じ、帰国後も過去最高のパワー数値を打ち出すほど仕上がりの良さを感じていた。

いつもより早めに現地に入り、ゆっくりと確実に調整。

国内外で数多くのレースを経験し、学び、失敗を生かし、今回も例外なく、準備もぬかりなく行えているはずだった。

しかし、予想もしていなかったイレギュラーなことが起こった。

レース前夜から何かが爆発したように高熱が発症。
喉も切れるように痛み始めて唾も飲み込めないような状態。

夕飯を無理矢理に詰め込み、7時頃に床に着いたが、熱の辛さと喉の痛みでほぼ寝付けないまま朝を迎える。

朝3時半、症状は全く変わらず、トイレに起き上がるのも困難な状態で、正直会場に行くことすら厳しいと思った。

せっかく用意してくれた朝食も痛みで喉を通らず、甘酒とバナナだけ無理矢理胃に詰め込んだ。

久しく味わっていなかった身体の辛さに、心までもが負けそうになっていた。

しかし、横にいる妻は、「スタートの6時までにミラクルが起きるかもしれない。」と希望は捨てていなかった。私のトレーニングや積み上げてきたものを誰よりも近くで見てきている存在。

ミラクルが起きた時のためにぎりぎりまで準備だけはしよう、
その想いを胸に二人で覚悟を決める。

宿の女将さんが、暖かい蜂蜜生姜茶を用意してくれる。
私の様子を見て「やめておきなさい」と言ってくれたが、「とりあえず会場へ行ってきます」と宿をあとにした。女将さん本当にありがとう。

会場に着いた時は、スタートまで30分を切っていた。

メカニックの安達さんがバイクの最終セットアップを、清子は最終補給食調整を手際よくしてくれたおかげでスタートを切れる準備は整った。

とにかく喉が痛かったのでノド飴を常に口に入れておくために十数個用意。ベタベタするが、袋から出す作業を短縮するため直接バックポケットに詰め込んだ。

アドレナリンに溢れる会場、皆のやる気に満ちた顔に感化され、私も気持ちがどんどん前向きになりはじめる。

第一目標であった「スタートラインに並ぶ」ところまではやってきた。

ライバルたちと共にスタートに並ぶとアドレナリンも出てきて「これは当初の予定通り、優勝も行けるのでは?!」とまで精神状態は高まった。

目標時間は約4時間半。この時間帯だけでも身体を騙すことができればいける。レースと同等以上のハードトレーニングは嫌というほどしてきている。我慢してみせる。

しかし、パレード走行中から息が上がると頭がフラっとする感覚があり、バイクコントロールに集中しないといけない瞬間が何度かあった。もし、転倒したら大落車を引き起こし、周りにも多大な迷惑をかけることになる。


不安と希望が入り混じる中で、いよいよ先導車が消えて、一気にスピードが上がり、リアルスタートが始まった。



最初の平坦区間は、先頭には出ずに先頭集団の後ろで様子見の位置取り。必死ではあるが、とりあえず着いてはいけている。このまま身体が動き始めてくれればと願う。

しかし、斜度が上がり始めると、その願いは早くも打ち砕かれた。

身体はブルブルと震え始め、頭はクラクラ。足を緩めて様子を見て、もう一回踏み直す。それを何度か繰り返すが、まっすぐ走ることさえ困難になってくる。踏んでもペダルに跳ね返されるような感覚。

以前、ネパールで感染症にかかりながら脱水症状で追い込み続けてコース上で気を失い落車をした記憶と重なる。

それほど足を止めること、レースから降りることは私にとって受け入れることができない行為。大げさに言えば「死」を受け入れることに近い。私にとってMTBはそれだけの存在でもある。降りるときは身体的・機材的に続行不可能な状況のみ。「きつい」「過酷」という理由で自らレースを降りることは絶対にない。

ついにペダルを一回転も回せなくなり、バイクとともにコースサイドへ倒れこんだ。

スタートからたったの7キロ地点。

ミラクルは起きなかった。

結果は、DNF(途中棄権)。この言葉ほど嫌いなものはない。

だったらスタートしない方がよかったのでは?

確かに、スタートしなければ身体へのダメージも少ないし、スマートな判断としてはアリなのかもしれない。

しかし、私にとってDNFよりも嫌いなこと、それは「可能性を捨てること」。

あの絶望な状況でも、もし0.0001%でも勝てるチャンスがあるのなら、トライをせずにはいられなかった。

一人ではスタートにすら辿り着けなかっただろう。スタートに立たせてくれた仲間には心から感謝。
身体を気遣ってくださり、スタートを止めようとしてくれた方たちにも心から感謝。
そして、私を応援してくれている全ての人たちにも心から感謝。

ありがとうございます。

追い込んでしまった代償はありますが、完全に体調が戻るまでしっかり休みます。

必ず次回は最高の走りをみなさまの前で披露できるよう、120%の状態で戻ってきます!

これからもどうぞ宜しくお願いします。


追記:
7キロ地点で止まっている時に、1000人近い参加者の方たちが通り過ぎました。
精神状態的にみなさんの希望に満ちた頑張る姿を直視できませんでした。しなくても良いバイク調整をしたり、隠れるようにする情けない自分がいました。メカトラかと思った方もいますが、バイクは完璧でした。私だけの問題です。
それだけ、みなさんの意気込み、姿勢、表情、輝いていました。まぶしかったです。

中には必死なところで声をかけくれたり、心配して立ち止まってくれる方もいました。ありがとうございました。


池田祐樹
〜超戦〜
TOPEAK ERGON RACING TEAM USA
レース中機材・装備:
バイク: Canyon LUX CF 29 チームエディション
フォーク・リアショック:Rock Shox RS-1Monarch XX
ブレーキ:SRAM Guide RSC
ドライブトレイン:SRAM XX1, フロント32T
タイヤ: MAXXIS IKON2.2 TR EXO: 前後18PSI
シーラント:Stan’s NoTube Race Sealant
グリップ: Ergon GS1
グローブ: Ergon HM2
サドル:ERGON SMR3 S Pro Carbon
ペダル: Crank Brothers Eggbeater 11
ヘルメット: Limar
工具・サドルバッグ・ボトルケージ: Topeak
チェーンオイル:Finishline
補給食:GUパワーバージェル&VESPAプロSayako’s Kitchen
ソックス:C3fit 
テーピング:ニューハレ
ケーブル/ワイヤー:JAGWIRE
ヘッドバンド:Halo II (ヘイロ II) プルオーバー
チームジャージ:Primal Wear